発表されたの自体はだいぶ前のことですが、新型のMacProがAppleから発売されたのはつい先日のことです。そろそろ購入者の手に行き渡ろうとしているところですが、そんな中、コンピュータを速攻で綺麗に分解し、修理のしやすさを評価するあの「iFixit」がもうMacProを分解しました。ということで、このサイトでもMacProの中身のパーツをわかりやすく解説していきます。
拡張性についても言及するので、今後MacProを購入する予定の方はぜひ最後までご覧ください。
この記事を3行で説明すると
- MacPro 2019年モデルは一般的なタワー型パソコンに近い構造となっているが、オンボードSSDについては独自規格のものである
- iFixitがつける、カスタマイズ性についての評価は9/10(非常に高い)
- 残念ながら、チーズのおろしがねとして使うのは難しい
X線で見てみる
最初に言っておきますが、この記事で紹介している画像はiFixitが提供しているものになります。iFixitはApple製品等を発売されたあとすぐに分解し、一つ一つのパーツについて解説しつつ、修理のしやすさを評価しているサイトです。
iFixitでは、まず最初にMacProをX線で撮影しました。これは毎回行なっていることですね。

どう撮影すればこんなに綺麗に写るのかはわかりませんが、内部のパーツが一つ一つ綺麗に見えるくらいうまく撮れています。
左下の方に写っているのはCPUではなく、PCI-e(グラフィックボード等)を制御するチップです。そしてCPUは右上にあります。
右の方にはPCI-eスロットがたくさん並んでいて、左の方には大型の3連ファンの面影が写っています。
各パーツについてはこのあと詳しく説明していきますが、この時点で、一般的なタワー型パソコンに近いパーツ配置になっているということがわかります。ということで修理のしやすさについてもなんとなく期待ができそうです。
マザーボードを見てみる
裏面

多様な専用工具を使って、iFixitは無事MacProの肉体から内部のマザーボードを取り出すことに成功しました。パソコンの拡張性というのは80%くらい、この「マザーボード」で確認することができます。
それでは主なパーツを説明していきます
1.メモリスロット
まずひときわ目立っているのが右上に12個連なっているメモリスロットです。形はDDR4で、最大6チャンネルで動作することができるようです。
スロットの形はいたって普通で、両サイドに固定用のピンがあります。最小構成では8GB x 4 = 32GBとなっていますが、それでもスロットは一応12個あるようです。CPUのオプションを、24コア/28コアのもの(型番の末尾にMがついているCPU)にしないと最高の1.5TBメモリを選択することはできないみたいですが、数百GB程度までのアップグレードならどんなCPUを選んでもできるようです。
ちなみに最小構成のCPU「Xeon W-3223」でも6チャンネルで動作します。
2.SSDスロット
右下で青枠に囲まれている部分の下の方に二つ白い線がありますが、それがオンボードSSDのスロットです。二つ連なっているM.2スロットのようにもみえますが、実際はM.2規格等ではなく完全にAppleの独自規格だそうです。ただ、この規格はiMacでもみられた形みたいなので、部品の入手性はそこまで悪くなさそうです。

このSSDはM.2接続のNVMe SSDと同じように超高速データ通信を行える代物ですが、決してM.2規格ではありませんので、M.2 SSDを購入しても無駄です。ただ、ありあまっているPCI-eスロットやSATA端子を活用すればあらゆるストレージの増設は非常に容易にできるでしょう。
マザーボードのこの面には他にも様々な処理ユニットが存在しますが、どれも私たちにはあまり関係ない装置ばかりです。一般的なマザーボードよりもコントローラの数が圧倒的に多く、とても精密に制御されているのが伺えます。
おもて面

1.CPUスロット
左上には自作パソコン民にとっては見慣れているスロットが存在しています。それはCPUのスロットです。一般的なパソコンのソケットより明らかに縦長なのは、その規格が全く違うためです。最近のIntelのメインストリーム(主流)CPUのソケットは「LGA 1151」とよばれるもので、CPUに接地するピンの数が文字通り1151個存在しています。一方MacProのソケットは「LGA 3647」で、ピンの数が3647個となっているので通常の3倍以上もピンが存在することになります。ピンの密度はさして変わらないため、CPUの大きさ自体も面積比3倍以上ということになります。とても大きいCPUが使われていますので、通常のCPUに交換することはまずできません。
LGA 3647ソケットを採用しているCPUは一部のXeonプロセッサのみですので、CPUの交換は基本できないと思ってください。
2.PCI-eスロット
MacProにはその大きさから想像できる通り、たくさんの拡張ボード設置スロット(PCI-eスロット)があります。一昔前には「PCI」と呼ばれるボードの接続タイプもありましたが、それには一切対応していなくて、PCI-eのみのようです。

詳しく見てみると、スロットは合計8つあり、そのうち一番上の一つはx8サイズになっていて、それ以外はすべてX16サイズとなっています。物理的にX16サイズスロットにはなっていますが、Xeon W CPUはより多くのPCI-eレーンをサポートするため、おそらく上一つを除くすべてのスロットがx16レーンに対応しているでしょう。ちなみに一番下のスロットと下から三番目のスロットの左側には長いスロットが設けられています。これはグラフィックボード用の拡張電源スロットで、一般的には8pinや6pin等のペリフェラル電源(有線)を用いるところを、スロットで電力供給を行なっているスタイルになっています。そのため、補助電源ケーブルが一切ないようです。
各スロットの用途は以下の通りです。
スロットNo.(下から) | デフォルト用途 | 備考 |
---|---|---|
1 | グラフィックボード(4スロット分) | |
2 | 不使用 | グラフィックボードに干渉 |
3 | グラフィックボード(4スロット分) | オプションによっては空く |
4 | 不使用 | グラフィックボードに干渉 |
5 | Afterburner(選択時)(1スロット分) | |
6 | 不使用 | |
7 | 不使用 | |
8 | IOボード(1スロット分) | 物理的にはx8接続 , IOボードはx4接続 |
グラフィックボードのオプションにもよりますが、基本的に何か拡張ボードを取りつけるとなったら6,7スロットを使うことになるでしょう。もしかしたら、M.2 SSDの増設やRAIDカードの設置等はここでできるかもしれません。
ちなみにすべてのスロットがPCI-e 3.0接続です。
3.内部IO
PCI-eスロットの上あたりにいくつか内部IOポートがあります。
下の写真で、一番左は本体のロックを行う切り替えスイッチのようなもので、その次はUSB Type-Aのようにもみえます(もしかしたら違うかもしれません)
そしてその右に2つのSATAポートがあり、一番右にはマザーボードへの電源供給スロットがあります。たまにメーカー製パソコンでみる10ピンの供給スロットですが、通常のATX電源のものは使えないので注意しましょう。

SATA端子については、オプションで選択するいずれのストレージ構成でも規定では使われないため、2スロットがフルで余っていることになります。ここに大容量のHDD等を接続すればさらに多くのデータを保存することができそうです。このポートはもちろんSATA 3ポートです。
4.チップセット
これは修理や改造にはあまり関係ありませんが、マザーボードのこの面に、マザーボード全体をコントロールする「チップセット」が設置されています。

CPUなんじゃないかと疑ってしまうくらい巨大な代物ですが、これはIntel C621チップセットで、サーバー向けのものになります。
IntelのメインストリームCPU用のチップセットといえば、最新のものですとZ390あたりが有名かと思います。しかしこのC621チップセットはそれとは全く違います。サーバー用に、サポートするレーンの数も多くなっていますし、あらゆるテクノロジーをサポートしています。そして通常のチップセットよりも2倍以上電力を消費します。
5.T2チップ

このマザーボードには、一般的なチップセットの他にもT2と呼ばれるチップセットが搭載されています。ネーミング的にApple独自のチップであることがなんとなく伺えますが、まさにその通りで、AppleがこのMacProを保護するために作ったチップになります。Appleの主張では、このT2チップはHDDをはじめとする様々な接続パーツを保護するのに役に立つとのこと。
このようなセキュリティチップの採用が、このMacProに対する信頼性をより高くしますね。
パーツ全貌

パーツの全貌としては以上の通りです。
左上にはCPUと、大型のCPU用ヒートシンクがあります。
そしてその下にはPCI-eスロット部のカバー。右に3蓮の大型ファンがあります。このファンのうち一つのファンがCPU用ヒートシンクを徹底的に冷やすので、CPUファンにもなっています。
右のほうにはロジックボード(マザーボード)があり、大量のメモリスロットが顔を出しています。そしてその上にシロッコファン?形状の大型のファンがあります。
修理のしやすさ度
iFixitの目的は修理のしやすさ度を測ることです。最終的にiFixitが提案したスコアは、9/10です。
これはAppleの製品としては相当高いスコアでしょう。
主な理由としては、用途に合わせて自由自在にカスタマイズができるようになっていることです。そもそもこの新型MacProはカスタマイズ性が豊かであることが主な売りになっているようで、Appleもそれを強く主張しています。
修理のしやすさ度の話ではありますが、カスタマイズがしやすい≒修理がしやすいという認識で大丈夫でしょう。
10でない理由としては、オンボードSSDの規格が独自のものであるためとのことです。詳しい分解レビューについては以下のホームページをご覧ください。
https://www.ifixit.com/Teardown/Mac+Pro+2019+Teardown/128922
ちなみにiFixitによるとこの新型MacProをチーズのおろしがねとして使うのは残念ながら無理とのことです。溝が深すぎるためか、チーズを削っても削ったものがこびりつくだけで、それを回収するのに一苦労とのこと。
たぶん私の予想ではこの新型MacProをチーズのおろしがねとして使おうと思っていた人も多数いると思います。しかし残念ながら普通のパソコンとして使うしかないようですので、あらかじめご了承ください。
iFixitでは、様々なコンピュータを分解するための専用工具をマイナーなものから販売しています。実際に数々の高度な分解のパートナーになったことのある工具が数々出品されているので、みなさんもコンピュータを分解すると決まったらぜひiFixitで工具を購入するようにしましょう。
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Mac Pro 2019年モデルのオプションと性能について徹底解説【最速報】
情報源:https://www.ifixit.com/Teardown/Mac+Pro+2019+Teardown/128922
https://ww.9to5mac.com/2019/12/17/ifixit-totally-disassembles-the-new-mac-pro-in-fixmas-miracle/