初めてスマートフォンに指紋認証が導入されたとき、あれは何年前だったでしょうか。でも今ではすっかりと指紋認証がスマートフォンの認証方式の主流となっています。しかしそんな中、Appleは更にその上を行っています。
iPhone Xシリーズから指紋センサ付のホームボタンが廃止され、完全に顔認証に移行しつつあります。でも、近未来的な認証方式には憧れるし、非常に便利だと感じるとは思いますがその一方で、「他の人に簡単に突破されてしまうのではないか」「実は割と単純な認証なのではないか」と首をかしげる人は少なくないはずです。
私もその一人だったので、今回AppleのFace IDについてくまなく調べましたので、その仕組みについて図を用いて解説していきます。
※私は専門家ではないのでより厳密に仕組みを説明することはできませんが、より分かりやすい説明にするよう心がけています。 なお、具体的なアルゴリズム等についてAppleから公開されているわけではないので、一部あいまいな表現が含まれる可能性があります。
この記事を2文で説明すると
- Appleの「Face ID」顔認証では普通の顔認証とは異なり、顔の色やバランスをはじめとし、形状までも読み取って行う。
- Face IDでは様々なセキュリティ対策が施されている。
Face IDとは?
Face IDの仕組みを解説する前に、そもそもFace IDとは何なのかについて説明します。
[dic term=”Face_ID”]
Face IDというのは上の通り、Appleが開発した顔認証システムの通称の事です。そのため、Face ID自体はApple固有のものになります。
このシステム、すなわちAppleの顔認証システムは2017年に登場したiPhone Xシリーズに初搭載され、それ以降のモデルで採用されてきています。
そして、このFace IDシステムを支えているのが「Apple TrueDepthカメラ」になります。
TrueDepthカメラとは?
[dic term=”TrueDepth”]
TrueDepthカメラには「カメラ」の文字が入っているので単に内カメラの事だけを指しているのだろうと思われがちですが、実際は内カメラを含めた、顔認証に必要なシステム全体の事を指します。
すなわち、以下のように説明することができます。
Face IDによる顔認証はTrue Depthカメラシステムにより実現できている
ちなみにFace IDは第二世代まで登場していて、これからも更なる精度やスピードの向上が期待されています。
TrueDepthカメラシステムの仕組み
Face IDによる顔認証を実現するためのカギとなるのは「TrueDepthカメラ」だと説明しました。ではTrueDepthカメラは普通のスマートフォンの内カメラとはどう違うのでしょうか。
この図はTrueDepthカメラを搭載したiPhoneの上部を写しています。この黒いフィールドにTrueDepthカメラシステムが詰まっているのです。
なお、次世代のiPhoneではこのシステムが画面下、あるいはベゼル部に完全に収められ、ここまで目立たなくなるとも噂されています。それではそれぞれの装置について説明します。
ドットプロジェクタ
ドットプロジェクタは文字通り、「点」を「発射」する装置になります。この点というのは赤外線の事を表していて、このプロジェクタから3万本以上の赤外線が発射され、ビームとなります。
内カメラレンズ
内カメラのレンズになります。かなり小型ですが、その画素数としてはiPhone 11の時点で外カメラと同じになっています。
内カメラレンズも顔認証時に大いに役に立ってきます。
マイク
顔認証なのでマイクは使用されませんが、この位置に高精度のマイクが搭載されています。
スピーカー
スピーカーも使われませんが、本体下部のステレオスピーカーに加えて、本体上部のこの部分からも音を発することができ、より上品なサラウンドを実現します。
環境光センサ
光の量を感知します。そのため、周辺が暗いのか明るいのかを判断することができます。画面の自動明るさ調整機能でも活躍しますが、顔認証においても活用されるようです。
近接センサ
近接センサもドットプロジェクタと同様に赤外線を発射しますが、こちらは3万本も発射せずに最低限の赤外線を出し、物体の接近を検知します。
この近接センサがあることによって、人が目の前にいるのか瞬時に判断することができます。
投光イルミネータ
投光イルミネータについても赤外線を発射します。こちらは赤外線カメラ用の赤外線を照射する装置になります。
赤外線カメラ
そして一番左端には赤外線カメラがあります。こちらからは赤外線を発射するのではなく、跳ね返ってきた赤外線を受け取ります。普通のカメラは可視光線を受け取りますが、こちらは赤外線を受け取るレンズになっているのです。
これらの装置が集まって、Face IDのための「TrueDepthカメラシステム」を形成しているのです。なお、TrueDepthカメラシステムはFace ID以外でも様々な場面で活用されます。
Face IDの仕組み
それではFace ID(顔認証)の仕組みを説明していきます。
起動
Face IDシステムは内カメラを使うだけではないので、そこそこ電力を消費します。そのため常に作動させておくわけにはいきません。電源ボタンやアプリの起動などでFace IDがアクティブになったときに、近接センサによって物体の接近を検知して初めてシステム全体が起動します。
そして赤外線によって物体の接近を検知したら次の手順に進むように命令されます。「ドットプロジェクタで照射せよ!」
深度の測定
物体の接近を感知したら、続いて深度の測定が開始されます。この時に活躍するのが3万個以上の赤外線ビームを発射する「ドットプロジェクタ」です。
上のように、ドットプロジェクタが3万本以上の目に見えないドット(赤外線)を物体の上に照射し、物体までの深度を測ります。そしてこの深度情報を連続的に組み合わせると、「形状」として認知することができます。
すなわち、上の吹き出しの中のように形状を認識することができます。仮に顔を傾けたとしても認識される形状は同じであるため、ドットプロジェクタが照射できる範囲内であれはどこでも正確に形状を測定することができます。また、細かい動きについても感知できます。
なお、ドットプロジェクタでは顔の細かい色やパーツなどについては認識できません。
顔面画像の生成
ドットプロジェクタによる形状測定とほぼ同時に、顔面画像を生成します。
内カメラによって顔面全体を撮影します。この時に顔のパーツや色について正確に認識することができます。また、投光イルミネータによって赤外線を照射し、赤外線カメラによって赤外線イメージも作成しますので、暗闇の中でも顔の状態を認識することができます。
またこの時に、しっかりと目が機能してスマートフォン側を見ているか判定を行うこともできるので、マスクによる成りすましを防止することができます。
そして、ドットプロジェクタと内カメラの両方で認識できる範囲内であれば、顔認証を行うことができます。
登録データと照合
あらゆるセンサの働きにより、目の前にある顔面の情報をいくつか取得することができました。
ここで、登録されている顔データと同じものかを判定するために、照合を行います。この時に活躍するのがコンピュータの頭脳ともいえる「プロセッサ(処理装置)」になります。
顔認証を利用することができるApple製品に搭載されている処理装置では、機械学習を行うことのできるニューラルエンジンと呼ばれるものが搭載されていますので、より高度な解析を行い、照合をすることができます。
[dic term=”ニューラルエンジン”]
そして先ほど読み取ったあらゆるデータを処理装置に送ります。
登録データは写真や動画などが入っている「ストレージ」でもなく、処理装置が一時的に利用する「メインメモリ」でもなく、処理装置自体に保存されています。 また、顔データは画像や3Dモデルではなく、もはや誰も解読できないような数学的データにして保管されているので、万が一処理装置ごと奪われたとしても大丈夫です。ちなみにiCloud等にも保管されません。
そして先ほどセンサが読み取ったデータも数学的データに変換し、照合を行います。どれくらいの一致率で合格になるのかはよくわかりませんが、全く同じ数学データを生成することは不可能ですので、多少誤差があっても認証は通ります。マスクはNGみたいですが、サングラスをかけたり少し髭を生やしたりするくらいなら問題ないそうです。
しかし人が変わるだけでこの数学的データは大きく変化しますので、基本的にこの世でたった一人しか合格することはできません。しかしながら幼い双子同士だと稀に認証に通ってしまうこともあるようです。
Appleは
双子や似ている兄弟姉妹、または 13 歳未満の子供については顔の特徴も成長途上にあるため、統計的な確率が違ってきます。この点について懸念される場合は、パスコード認証をご利用になることをおすすめします。
と説明しています。この点、一生変化せず、双子同士でも異なる「指紋」を使った認証の方が優秀と言えるかもしれませんね。 しかしAppleの処理装置に搭載されている「ニューラルエンジン」は常に学習し続け、より精度を高めることに徹しています。
学習
Appleの処理装置は成功したことを基に学習します。つまり、先ほどの手順を経て顔の認証に成功した場合、登録データと合わせて、より最適なデータにします。
ここまで単純ではないので上の図はあくまでもイメージ図になりますが、認証後に一部の数学データを書き換えているのがわかります。もちろん顔のパーツ配置が換わるくらいの更新ではありません。人の目では全く分からないような微細な部分のデータについても学習し、更新を行うのです。
セキュリティ対策
Face IDによる顔認証の仕組みは以上です。これだけでもFace IDが普通の顔認証とは異なり、かなり精密に認証を行っていることがよくわかったと思いますが、さらにセキュリティを向上させるためにいくつかの工夫が施されています。
不審な挙動を感知
Face IDに必要な「TrueDepth」カメラシステムには、不正改造を検知する機能が組み込まれています。そして、不正改造が疑われた場合には自動で顔認証システムが無効になります。
そのため、万が一この顔認証のアルゴリズムを理解している人がいたとして、下手にマスクを使うのではなく機械的に改造してやろうと企んだとしても無駄です。
Face IDの無効化
Face IDでは、以下のケースでその機能が無効になります。
- デバイスを起動したとき
- 48時間以上ロック解除されていない時
- ロック解除に6日半パスコードが使われておらず、過去4時間にFace IDでデバイスのロックを解除していない時
- リモートのロックコマンドを受信したとき
- 顔認証に5回失敗したとき
- 音量ボタンのどちらかとサイドボタンを同時に2秒間長押しして電源オフ/緊急SOSを作動させた後
三番目の項目なんかはTouch ID(指紋認証)にはなかった機能なので、Face IDの方が若干厳しいと言えるでしょう。
このように、定期的にパスコードによる認証を行わなければならないシステムになっています。また、誰かに襲われたときにすぐに顔認証を無効にできるので、万が一自分の気が失われたときでも安心です。 でもそれ以前に、気を失ったときは基本的に顔認証が効かないようになっています。(黒目の動き等)
このように高精度、高速かつ安全な認証によってiPhoneやiPad等を快適に利用することができるのです。
※仕組みについて解釈が誤っている場合はコメントやお問い合わせにてご一報いただけると幸いです。